研 究内容
研究テーマ:ルイス酸触媒を用いた酸素原子の活性化によるカルボカチオンの発生を伴った反応開発
アルコールを基質とする直接的な脱水型求核置換反応は,反応性の乏しい水酸基を脱離基に変換することなく利用し,原理的には水のみが副生されるため,原子効率に優れ,環境調和性の高い手法となります。従って,これまでに多くの有用な手法が開発されるに至っています。しかし,この反応を不斉反応へと展開した例はほとんど知られていません。
このような背景のもと,当研究室では,不斉補助基を導入したジアリールメタノール1を基軸として,ルイス酸触媒の存在下で,各種求核剤「2-ナフトール,アリルトリメチルシラン,ベンズアミド,ベンゼンスルフィン酸,1,3-ジカルボニル化合物」との不斉誘導型ジアステレオ収束的なカップリング反応を確立しました[1–5]。
[1] Eur. J. Org. Chem. 2017, 7075–7086.
https://doi.org/10.1002/ejoc.201701280
[2] Eur. J. Org. Chem. 2018, 6566–6573.
https://doi.org/10.1002/ejoc.201801236
[3] Asian J. Org. Chem. 2019, 8, 119.
https://doi.org/10.1002/ajoc.201800635
[4] Eur. J. Org. Chem. 2019, 4906–4910.
https://doi.org/10.1002/ejoc.201900830
[5] Eur. J. Org. Chem. 2019, 7394–7398.
引き続き,アミンの一般的な保護基として用いられるだけでなく,多くの生理活性化合物や薬剤の骨格に含まれるスルホンアミド構造に着目し,キラルなスルホンアミドの新奇供給法の創出を目的として,スルホニルアミンを求核剤として1との反応への適用を試みました。検討の結果,異なるルイス酸触媒を用いた立体収束的なジアステレオ二方向性型スルホンアミド化反応の開発に成功しました[6]。
[6] Org. Lett. 2018, 20, 7057–7061.
研究テーマ:キラルな求核性グアニジン触媒の創製と不斉反応への応用
キラルな求核性グアニジン触媒(R)-NMBGの創出に成功し,次いで,窒素上にキラル中心を導入した(R,R)-NβNpEtBG,および軸不斉を導入した(aR,R)-cat. の合成を達成し,これらが優れた機能を発現することを明らかとしました。さらなる性能の拡張を目的として,触媒構造の改良を行っています。
グアニジン触媒(R,R)-NβNpEtBGが不斉シリル化反応を効率的に触媒することを見出し,ラセミ1-インダノール類の速度論的光学分割法の開発に成功しました.この反応は歴史的に挑戦的な課題として残されていましたが,本手法はこれまでで最高の選択性を与え,この困難を克服することができました[7]。
[7] J. Org. Chem. 2018, 83, 452–458.
https://doi.org/10.1021/acs.joc.7b02493
上記反応は基質一般性の高い手法であることがわかりましたが,検討の過程で2,2-ジアルキル-1-インダノールを基質とした際には,反応が進行しませんでした。反応を再検討したところ,この場合は(R)-NMBGの方が適しており,最適化した条件のもとで,広範な2,2-ジアルキル環状ベンジルアルコール類に適用することができました[8]。
[8] Adv. Synth. Catal. 2019, 361, 4679–4684.
キラルなグアニジン触媒を用いた,不斉シリル化および不斉アシル化反応によるラセミ第2級アルコール類の速度論的光学分割法の研究の過程で,得られるシリル化体とアシル化体の立体化学のセンスが逆であることが判明しました。そこで,これら2つの反応を段階的に行うことで,実用的な光学純度でキラル化合物を供給する新奇な光学分割法の研究に着手しました。検討の結果,ワンポットで実施可能な操作性に優れた,二段階速度論的光学分割法を確立しました[9]。
[9] J. Org. Chem. 2022, 87, 10509–10515.
進行中
不斉シリル化反応を活用した,メソジオール類の不斉非対称化反応,動的速度論的光学分割法の開発研究,ならびに不斉シリル化と不斉アシル化を組み合わせた光学分割法の創出